手紙を出すときのあのドキドキの話。

 こんにちは!
 さて、突然ですがこの記事に目を通してくださっている皆さんは、推しにお手紙を書いたことがありますか?

 私は何度かあります。書くたびに手紙って良いよなぁと思います。
 スマホがとっくに浸透したこの時代、Twitterでもブログでも、アプリでいつでも推しに気持ちを送る手段はあるのに、あえて手紙を選ぶなんてもしかしてコスパが悪いのかもしれません。まして推しへのお手紙は読んでもらえるかもわかりませんからね。
 それでも私はお手紙が好きで、便箋を選ぶ時間だとか文字を書いている間はずっと相手のことを考えていられることに気づきました。
 そんなに幸せな時間ってそうそうないなぁって思います。

 先日久しぶりにポストに手紙を投函しました。誰が見てるわけでもないのに、なんとなくドキドキするあれはなんなんでしょう。私だけでしょうか。
 でも決して嫌なドキドキじゃなくて。先に書いた「幸せな時間」も含めて、大事にしたい気持ちだな、何かしらで形に残しておきたい気持ちだなって思いました。

 想ったことをポツポツと書き連ねてしまうとどうしてもポエムみたいになって恥ずかしいので、もうちょっと文章を足して物語みたいな感じにしました(これはこれで恥ずかしいのでは?)。
 結果として出来上がったのは、日記ともいえないストーリーともいえない「なんだお前は」みたいな文章なのですが。

 せっかく書き上げたので、続きに残しておきます。

 皆さんは「手紙を出す主人公」になったとき、どんな気持ちで手紙を送るんでしょう。
 同じようにドキドキ緊張するんだよね~!という方が居てくれたら、私が勝手に安心するので教えてください。
 もちろん、「いやいや手紙くらいへっちゃらよ!」なんて方も、師匠とお呼びしたいくらいなので教えてください笑


旅路


 ――手紙を出すのって、こんなに緊張したかしら。

 仕事帰り、私は駅前の通りに佇む郵便ポストの前で固まっていた。
 赤色という人目を引く色をしているはずなのに、道行く人は皆、この存在に気づいていないかのように足早に通り過ぎていく。そんなポストの前でじっと立ち尽くしている私は、最後に手紙を出したのはいつだったろうとぼんやり考えていた。中学生の時、雑誌の懸賞に応募するためにハガキを出したあの時が最後だろうか。
 郵便ポストが、この駅前の通りや郵便局以外のどこにあるのか、私にはパッと思い浮かばない。それくらい、手紙を出すということに縁がなかった。
 いつからこのポストがここに設置されているのかも知らないが、塗装の剥げたそれは、まるで時代の変化から取り残されてしまったようにも思えた。

 昨日、小学生のころからの親友が25歳の誕生日を迎えた。同時に、3年ほど付き合っていた彼と結婚をした。彼女の誕生日にあわせて届を提出するのだと、プロポーズを受けたことを電話で教えてくれた時、弾んだ声で言っていたのがもう半年も前になる。
 そして昨日のお昼ごろ、彼女から「入籍しましたよ」という文面と一緒に、照れ顔の猫のスタンプがメッセージアプリで送られてきた。
昼休憩をとっていた私は安堵感を抱きながらお祝いの言葉を打ち込み、続けて誕生日を祝うスタンプを送った。
 小学生の頃からずっと一緒にいた親友の新たな門出に、なんだか鼻の奥がツンとして、おめでとうだけじゃない何かを伝えたくなった。
 お幸せに……はもちろん必要だけれど、もっと。もっとあなたの幸せを喜んでいると伝わる言葉はないだろうか。メッセージアプリに言葉を打ち込んでは消し、打ち込んでは消しを繰り返して、そうこうしているうちにふと、高校時代に彼女が「あなたの書く字が好きよ」と言ってくれたことを思い出した。
 しばし考えた後、いつの間にか長文になっていたメッセージ欄の文字をすべて消し、私は今日は定時で帰ることと、帰りにレターセットを買うことを心に決めた。

 選んだのは、淡いピンク色の紙に桜の模様があしらわれたレターセットだった。春生まれの彼女は桜が好きだ。普段は出不精のくせに、春になると花見に出かけようと何度も誘う彼女を思い出して頬が緩み、迷うことなく手に取った。
 家に帰ってから食事もそこそこに机に向かった私は、少し緊張しながら肌触りの良い紙面にボールペンを走らせた。こんな風に机に向かってものを書くなんて、学生の時以来かもしれないと思いながら。
 メッセージアプリのように書いては消し……とはできなくて、1文字1文字間違えのないように慎重に書く。最初に仲良くなったときのこと、ずっと親友で嬉しいこと、何よりあなたが幸せになるのが嬉しいこと。気持ちが溢れるままに書き上げたその手紙が、上手に書けているかはわからない。読み返したら、私はきっと照れ臭くなってこの手紙をなかったことにしてしまうだろう。
 勢いのままに封筒に入れ、メッセージアプリをしばらく遡り、プロポーズを受けてすぐに彼の家に引っ越したからと、一度遊びに行く際に教えてもらった隣の県の住所を書いた。宛名を書くとき、ああ今までの苗字じゃないのかと気づいたのは、我ながらファインプレーだったと思う。時計は深夜1時を回っていた。

 案の定寝坊をし、慌てて電車に飛び乗った朝は手紙を出せなかった。昼休みは急ぎの仕事が入り、郵便局に行けなかった。そうして残業を終えて帰宅する今になってようやくポストにたどり着いたは良いものの、なんだか簡単に投函することが出来なくて、こうしてにらめっこを続けているわけだ。
 手紙を握る指先が心なしか冷たく感じる。貼られた切手は84円。だけど便箋3枚にありったけ込めた想いは、間違いなく規定の25グラムをゆうに超えているだろう。
 やっぱりメッセージアプリが良かったんじゃないか。不安が顔をのぞかせた。アプリだったらすぐに既読がつくのに。すぐに返事がくるのに。自分が変なことを送っていないか見直せるのに。
 そう思いながら、淡いピンクの封筒に目を落とす。彼女の顔が浮かぶ。桜の便箋を喜んでくれるだろうか、そう考えてレジに並んだことを思い出した。
 目を閉じて、家路を急ぐ人たちのいくつもの足音を聞きながら、昨夜物音1つしない部屋で彼女に向き合ったあの静かな夜を思う。

 きっと、優しい時間だった。

 とすん。小さな音が、手紙が私の手から離れたことを告げた。
 飲み込まれた封筒はもう取り出せないし、何を書いたか見返すことも絶対にできない。もう何も握っていない手をグーパーと2度ほど閉じたり開いたりして指先に血が巡るのを感じながら、物言わぬポストの投函口を見つめる。
 ――こんなに緊張したかしら。
 旅に出たのだ、と思った。
 手紙はこのポストで1晩眠り、明日出発して、県をまたぐ。きっと私の知らない道を行き、風を浴び、そうして丸1日かけて彼女の家に届くのだろう。25グラムをはるかに超える想いを詰め込んだ私の文章に、彼女は驚くだろうか。笑うだろうか。

 頼むよと、塗装の剥げた赤いポストを優しく撫でる。

 ――こんなにわくわく、したかしら。